しろみそらの俳句1
村の中心に銀鏡(しろみ)神社があります。
毎年12月の例大祭には村外で暮らすひとたちが帰ってきます。
「かぐらみーに帰って来たっちゃね。」「盆にも帰って来っちゃろ?」
同郷人同士の合言葉になっています。
銀鏡を詠んでいる句にはを付けています。
銀鏡は私の原点です。
俳号 しろみ そら
2010年
寒晴れや金平糖の角いくつ
新しい予定の立ちて暦買ふ
あたたかな雨であります実千両
初冬の記憶のとびら軋みけり
露寒の長き廊下を渡りけり
秋天下丸三角の塩むすび
天高し人の世永き古墳群(さきたま古墳)
円墳の頂に立ち涼新た(さきたま古墳)
眠る子の乳の匂へる良夜かな
八月の砂こぼれあり縁の先
品書きに目を細めゐる生御霊
かなかなや天上天下悔いに悔ゆ
炎天下を少年の目で突き進む
卓上の鉛筆の影揺らぐ南風
風死すや汝の敵は汝なり
佳きことの報せ重なり大夕焼
まくなぎの波となりたる坂の街
サングラスして僕から俺になりにけり
静脈の太き白シャツ年金課
たとふれば甘苦き水夏の月
入院の早まりて飲むビールかな
万緑や陸軍歩兵厠跡 (佐倉城址公園)
青空を画紙半分の立夏かな
身を置きて程良き距離の虞美人草
おぼろ夜と知れば電話はせぬものを
携帯のふるへる予感春夕焼
菜の花や本日全快発車ベル
春探し甘納豆の濡れてゐる
たんぽぽの戸籍抄本教へます
色つぽいね稲荷神社の恋の猫
逆光に人影揺らく二月かな
風呂敷の結び目尖り寒の雨
担任の名前出てくる毛糸玉
ゆがみなき目で描きたし水仙花
冬帽子並んで小首右に寄り
天狼やホームに人の吐き出され
神面を背負ひて集ふ里神楽<
篠笛の一拍休み里神楽
ちやんづけで呼び合ふ村やのうぜん花
麦秋や周波の変はる橋を超え (宮崎県西都市・杉安橋)
青蛙風になびかぬこころ持て
かけまくもかしこみまうす早苗かな
薫風や予約開始の産地便
のどかさやランプの火屋を磨く音
風光る百葉箱の錆びた釘
菜の花やそろばん揺るる下校の子
七草やたれにも母の言葉あり
三日はやひむかの空に飛行船
2009年
ゴミを捨て冬三日月をみてかへる
雪蛍垣根を越えて甲斐の国
額の絵のマストを掴む冬の蠅
街道に幟揚がりて冬が来る
着膨れて七人掛けの電車かな
冬夕焼平たい石につまづきぬ
素十忌や空どこまでも海の色
長月のストレス揉んで作句かな
電柱をのこして暮るる今日の秋
人街の顔して女ところてん
向き合うて蛍をつつみ放ちけり
干草やハモニカを吹く大きな手
夏帽のつばの広さをもてあます
薄目してみたくなりたる樟若葉
向日葵や胸に宿れる力瘤
少年の岬みてゐる聖五月
つくしんぼどの子にも来る雲の影
小雀の八の字八の字の歩幅かな
チューリップ並んで咲いてそつぽ向き
桜餅ひとさしゆびを舐むる癖
行く春や根付に下がる祈願札
畑に来て鴉土蹴る養花天
しがらみを宇宙に埋むる桜かな
花豆のぷつくり煮ゆるおぼろかな
ラヂオから日の出の予報春二番
如月や色とりどりのカタン糸
沈丁花退院の日の外は雨
雪こんこまるいポストに雪こんこ
修行僧の粥炊き上がり冬の梅 (永平寺)
『太陽の白い日』(自選30句)
唐突に始まる話曼珠沙華
信号を正しく守り冬帽子
自転車に乗れぬ子のゐる小春かな
動脈のざわめいてゐる冬の月
野火消えてたちまち音をとりもどす
おぼえある名刺の日付鳥曇
花ぐもり私だんだん猫になる
パンを買ふ女の列の立夏かな
蟇蛙電車の音の中に棲む
沼の辺の大きなベンチ夏に入る
雨の日は青いトマトを絵に描いて
秋扇言ひそびれたることのあり
太陽の白い日のありからすうり
冬の椅子きらきら尖る砂糖菓子
耳袋分け知り顔をしてをりぬ
しんがりをつとめて母の初湯かな
半鐘の黒々としてあたたかし
三月や句帳にのこる水の音
菜の花やひとり遅れるランドセル
消しゴムの丸くなりたる日永かな
太陽の近づいてくる麦の秋
ゆるやかに風わたるなり今年竹
傾ぎたる花屋のポストそぞろ寒
千駄木の部屋の釘抜く小六月
成田まで三人掛けの冬帽子
村ちぢむ時三方の山眠る
隠しおく水屋のグリコ春の雷
ゆつくりと自転車止まる新樹光
物干し場より母のハミング聖五月
『こぼれ種』
光るのは携帯電話案山子かな
分の厚き封書の届き鳥雲に
黄昏はほんに明るし烏瓜
それぞれに零れ種あり草の花
コスモスのうねりの果ての地平かな
麦秋や四角い顔の三代目
ふるさとや社家に生まれて石蕗の花
縄を綯ふ父の全身日向ぼこ
産土の三社の木の実拾ひ合ひ
この谷に七十余年や葱坊主
蜩やわけても杉の豊かなり
たまんにやあよつていかんね秋の蠅
字二つ消えたる村や曼珠沙華
墓残り人帰り来るあかのまま
五厘刈のあつけらかんやつくつくし
八月や先頭を行く在所の子
猫ふんじやつたオルガンの夏休み
物干し場より母のハミング聖五月
しんがりをつとめて母の初湯かな
2008年
外されしレールの腹や虎落笛
肩上げて首の体操冬隣
眠る子の反る指釣瓶落しかな
秋入り日閉店知らす太き文字
温め酒もどりたうなる道がある
秋風をしあはせと云い下駄を脱ぐ
うすれゆく街道の影ごまの花
炎天に肩を怒らせ御幣たて
てぬぐひの端のめだかに目のありぬ
みえてくるもののありけりサングラス
薬局の三軒並び若楓
ゆつくりと自転車止まる新樹光
少年とボールと犬の影に夏
隠しおく水屋のグリコ春の雷
三つ編みにまだ足らぬ子や春夕焼
丸文字のあらあらかしこ四月馬鹿
下総や街道肥やす松の花
とろとろと今日の小貝の春の水
水ぬるむ畑に婆来て鴉来る
日の中に鳰来て鳰の影を突く
朝焼けの立春星をこぼしけり
遠近の屋根の蔭ろひ蕗のたう
黒白の鳥の水蹴る二月かな
中指を反らして放し初湯かな
大正のモガモボ啜るなづな粥
末枯やなにうたうても浪花節
つり橋のきしきしと鳴る神無月
啄木鳥や村の人口二人増え
この子らの肩甲骨や雲の峰
ねむごろに塗箸あらふ春夕焼
2007年
新たなる鉄塔の影冬茜
凍蝶や朝礼台の影蒼き
十月の公園の影むらさき
しぐるるや和菓子の名前明可らす
マスクしてふた月になる孫を抱き
柊の花や村に俳優来るうはさ
千駄木の部屋の釘抜く小六月
桐一葉雨水の甕をよぎりける
トーストに生ハムのせて文化の日
商人と武家分くる町天高し
傾ぎたる花屋のポストそぞろ寒
唐突に始る話曼珠沙華
近づけば薄き色なり曼珠沙華
高々と君の提げ来る烏瓜
草紅葉自転車道のどこまでも
あくびして神かも知れぬ秋の声
秋草の雁木の坂や清水門
幾千の田に秋雨の近づきぬ
かなかなや友に便りを書かねばと
鰯雲同時に歌を歌ひ出し
戦争を引き連れてゐる蝉時雨
八月の窓辺に寄りてビーズ編む
ばばさまの茄子漬ばかり食べてゐる
その角のオランダ屋敷枇杷の花
雨粒の笹に残れる半夏生
夏雲やパンを分け合ふラガーマン
単衣着て何事もなく過ぎにけり
太陽の近づいてくる麦の秋
校長の三日不在や麦の秋
麦笛やクッキー缶を膝に置き
はんざきをみて酸欠の息を吐く
バス停の時刻見直す薄暑かな (親友を見舞う)
中吊りの夏夏夏と夏に入る
竹の子の皮を剥ぐ音がぎぐげご
作小屋に婆の椅子あり柿若葉 (「吉高の桜」のあるところ)
作小屋に犬腹這ひて柿若葉 (「吉高の桜」のあるところ)
菜の花やひとり遅れるランドセル<
私からあなたがみえるシャボン玉
消しゴムの丸くなりたる日永かな
好きですと笑って言って四月馬鹿
占ひの当たる気のする春の雲
八ミリの編集なかば春夕焼
落雲雀大泣きをして生まれくる
誘惑に負けるな蜷の道真すぐ
春夕焼帰りの道の細くなり
ラヂオからきこゆる昭和雁帰る
春月や回り道して主婦になる
末黒野の元の姿を思ひけり
三月や句帳にのこる水の音
三鬼忌や肩甲骨のポキポキと
古傷の新しくなる猫の恋
自転車の軋みて二月果てにけり
一月や乾涸く道におのが影
株式のはなしなどして女正月
初空や肩のほとりに神あらん
侍の鎧のやうな歯朶枯るる
朝霧の村や太鼓のとどろきぬ
村ちぢむ時三方の山眠る
縁側に正座の子をり秋彼岸
焼け跡の石垣高し花南瓜
自転車で家出してみる夏休み
縁側に父母のゐて夏座敷
樟若葉これより神事仕る
半鐘の黒々としてあたたかし
げんげだやあの子がほしい花一文
鳥曇に曽祖父の鍬洗ひをり
少年の石飛びわたる春の谷
2006年
耳袋分け知り顔をしてをりぬ
急行の止まらぬ駅のオリオン座
寒林を抜けて話のつづきなど
嫁姑重さの違ふ茎の石
冬の椅子きらきら尖る砂糖菓子
連山の円錐形に冬立てり
山茶花やからんころんと風が吹く
ラヂオ聴く犬の背中や冬隣
太陽の白い日のありからすうり
いつの間に雲の来てゐる曼珠紗華
二筋の風の細道からす瓜
下り鮎終のすみかの三隅川
親指の古傷かゆし鰯雲
どんとしてをり染みのある唐辛子
秋扇言いそびれたることのあり
十字路に二百十日の雨が降り
どこからか煙の匂ふ竹の春
葉鶏頭の色づく頃に会つたわね
明日嫁ぐ娘と硯洗ひけり
西洋のかぼちゃが届く日曜日
キッチンでジルバを踊る生身霊 (達子さんへ)
浮いて来いどこの国でもかまはない
友訪へば夜干しの梅のひろげをり
淡色のサングラスかけ見舞客
浦風のふくらんでゐる芒種かな
病院を抜け出て茅の輪くぐりけり
蟇蛙電車の音の中に棲む
雨の日は青いトマトを絵に描いて
緩和ケア西病棟に夏の月 (親友を見舞う)
時の日や水槽の藻のゆれてをり
パンを買ふ女の列の立夏かな
沼の辺の大きなベンチ夏に入る
花ぐもり私だんだん猫になる
飼ひ猫の家出六日目辛夷咲く
永き日の書棚のガラス曇りけり
地球儀を指で廻して春惜しむ
またひとつ反故の短冊白木蓮
青饅や脇役の名を忘れをり
おぼえある名刺の日付鳥雲に
文旦のジャムの煮詰まる雛の夜
柳の芽軽くなりたる薬指
揚雲雀いつもの電車過ぎるころ
野火消えてたちまち音をとりもどす
木漏れ日の方へ方へと春の鳥
紅の鼻緒の二月礼者かな
沼の辺ヘ光の逃ぐる二月かな
初筑波送電線の内にあり
にえの猪十頭並び里神楽 (銀鏡神楽)
寒烏V字の谷に社家のあり
闇を張る結界七里里神楽
法螺貝の谷間にみつる里神楽
法螺貝もまじりてゐたる里神楽
しぐるるやくつぬぎ石に靴二足
山腹に朱の鳥居あり金縷梅
まんさくや谷に三社の御神面
秋祭懸垂出来た帰り道
2005年
動脈のざわめいてゐる冬の月
自転車の軽き日のあり冬の雲
成田まで三人掛けの冬帽子
信号を正しく守り冬帽子
茶の花の蘂に集まるまつげかな
大屋根の寺に大根干されあり (函館スケッチ旅行 西本願寺)
そこここに赤き実のあり冬の雲 (函館スケッチ旅行 チャチャ通り)
すこしづつ日のすさりゆく烏瓜
草紅葉三つの橋を過ぎにけり
冬隣波郷の切れ字読み返す
自転車に乗れぬ子のゐる小春かな
水洟や御幣担ぎの一大事
日の暮れて低きを飛べる黒揚羽
囀や花いちもんめあの子ほし
はこべらやかすかに立ちぬ日の匂ひ
2004年
冬の空メタセコイアの細き幹
のみしらみかぞへながらの日向ぼこ (曽祖父・幸見を想う)
十七の私が見える夏の雲
田の神に折り目を伸ばす鯉のぼり
ゆるやかに風わたるなり今年竹
春夕焼帰りの道の細くなり