木曜日の風のいろ1

 10年ほど前、心が折れそうになることがあって、、、逃げ出したい、、、抜け出したい、、、
 でも、それ以前に、なぜ自分がここに居るのか、なぜこういう状況に直面しなきゃいけないのか、
 自分を納得させるために、自分に問いかけ、向き合わざるを得ませんでした。
 そんな暗中模索の中、自然発生的に生まれ出てきた言葉たちです。
 今もまだ、完全に吹っ切れた訳ではないのですが、、、、今日は今日の風が吹いています。
 九州の空の下より風に乗せてメールを送ります。
 お読み頂けたら幸いです。  (はるか)




      光                   名残を惜しむように      いくつかの星が      西の空へ消えようとしている      東ではすでに      明け方の光が      空の下でうずき始めている      その光は      どんな色に生まれ出ようと      しているのだろう      万物の頭上で      空をどんな色に染めようと      しているのだろう      新たな年が      新たな時代が      刻まれる時を繋いで      新しい光を作って行く      明るい光であって欲しい 空はいつまでも      青くあって欲しい      ずっとずっと未来の子供たちが      ずっとずっと輝いていられるように      新しい世紀は      まだ始まったばかりなのだから
      風の木                 風が吹くよ      山からの冷たい風が吹くよ      広場の端っこに      たった一本で立っているあの木は      冷たい風を避けることができなくて      全身で風を受けて      立っているんだ      いつのまにか      少しずつ少しずつ      身体を風の形にして      それでもなぜか      正々堂々としていて      ちっとも卑屈じゃないんだ      きっと泣きたいほど      寂しいだろうに      いつも凛としている      そして風が無いときでも      あの木を見ると      風を感じることができるんだ      きっと それが       あの木の役目なんだね      だから 一本でも      凛として立っていられるんだね
   それぞれにそれぞれで                  かぼちゃは      ゴツゴツしてる      外側は濃いみどり      半分に切ったら      きれいな黄色      中身は外からじゃ      わからないね      りんごは赤      ちがう色もあるけどね      半分に切ったら      ほのかに白い      中身も      皮と同じ      赤いりんごは      見たことないね      外側と      中身と      違ってていいよね      どっちがいいわるいじゃなく      それぞれに      それぞれで      どっちもいいよね
      私の手 U                     何気なく      友達と比べて驚いた      ずっと前から      自分でも      大きいとは思っていたけど      それにしても      関節のひとつひとつまで      大きかった      関節のしわ一本一本まで      大きかった      友達の手は      こじんまりしていた      関節のしわだって      さりげなく控えめ      でも私は      自分のこんな手が      いとおしい      がんばってやっていこう      何でもこの手でやっていこう      手の大きい人は苦労性      なんて言われたとしても      私だけの私の手      私だけに与えられた私の手
      バラードのように                     はげしい雨だった      駐車場に車を止めて      降りようと思いながら      しばしとどまった      屋根に落ちる雨の音      フロントガラスを流れ落ちる滝のような雨      その音にしばし聞き入った      しばし見入っていた      はげしい雨なのに      なぜかまるでバラードのように      心に響いた      奏者たちが目の前にいるかのようだった      ほのかに暗さが近づくたそがれどき      重く落ちて来そうな雨雲      車内灯も点けていない車の中      薄暗さの中に一人いて      でもなぜか      このはげしい雨に      曇った心が洗い流されて行くようで      心の中に      青空がかいま見えた気がした      バラードのように      心に響いた雨が      とても優しかったせいかもしれない
      今は今                     時計の針を      ちょっと進めてみたら      ホントのその時間が来るまで      わずか5分でも      なんだか余分に時間があるようで      ちょっと得した気分になったりする      でも      まだ来てないその時間が      もう来たようで      ちょっと慌てた気分にもなったりする      時計の針を      ちょっと遅らせてみたら      ホントのその時間は過ぎたのに      わずか5分でも      なんだかまだ大丈夫と思えて      ちょっと安心した気分なったりする      でも      もう過ぎた時間を      取り戻せるはずもなく      やっぱり虚しくなったりする      いくら時計の針を      動かしてみても      今は今      一歩の速さで過ぎていく
      雨の日は                   空が暗い顔をして      涙をこぼしている      空にだって心があるに違いない      きっといろんな悩みを抱いて      耐え切れなくなって      ポツリポツリ      涙をこぼすのだろう           涙の訳は?      空に訊いてみたい      空は答えずに      ただ涙を落とす      しくしく小雨      ぽとぽと大雨      ときには嵐になって泣き明かす      涙を流して      空は元気を取り戻す      人間だって      こらえ切れなくなるときがある      こんな雨の日は      空といっしょに涙を流そう      きっと雨と涙は仲良しだから      海までいっしょに      連れて行ってくれるだろう      空が晴れたら      心も晴れる      ニッコリ空を見上げてみよう
      「イーナ」の樹                   「イーナ」の樹      さえぎられることなく      四方八方に枝を伸ばし      昔からあるよな      大きな大きな大楠      一番上の高い枝からは      きっと町全部が見渡せる      夜 暗闇の中      「イーナ」の樹の下に佇めば      母に抱かれたような安堵感      重なりあう枝の      葉のあいだからは      無数の夜の      話し声が聞こえるよ      父の昔話を思い出す      私のお気に入りの場所      私の心許せる樹      私が勝手に名前を付けた      「イーナ」の樹      それは      いつも大楠を見上げているから      「いいなあ」とつぶやいているから
      闇の中の模様                  犬に誘われて      暗闇の中散歩に出かける      川辺に立つ木は      水銀灯に照らされて      川の中に影を落とす      水に揺れ      風にゆれ      模様がざわめく      月を覆うように      雲が流れる      いくつもいくつも      月の上を通り過ぎていく      その速さに      月が大急ぎで動いているような      錯覚さえ起こしてしまう      不思議な模様が      夜空に繰り広げられる      サーチライトが      行ったり来たり      闇の中に      新たな模様を作る      犬と私の影も      地面に濃く薄く      動く模様を作っている
      共 有                  ひと気のない駐車場で      白い蛾が      白い車にとまろうと      翅を動かしている      水銀灯に照らし出された      白い闇の中      白い蛾のためだけのような      虚ろな空間で      スローモーションのように      だんだんストップモーションに      なっていくように      時間が過ぎていく      犬を連れた私の足も      スローモーションのように      だんだんストップモーションに      なっていくように      蛾の動きから目が離せない      真夜中の白い闇の中      一人の人間と      一頭の犬と      一匹の白い蛾      時間と空間を      共有しているような      儚い生のときが過ぎていく
      落し物                  落し物をしました      どなたか拾った方はいませんか?      透明な小さなガラスのビンを      落としました      ビンの中には      透明な砂が入っています      思い出という      透明な砂です      上から下へ      少しずつ少しずつ、、、      さかさまにすると      何度でも使えます      とても大切にしていたのに      気がついたら      ないのです      きっとどこかに      落としてしまったのです      今 いっしょうけんめい      捜しています      どなたか拾った方はいませんか?      そして      あなたの心の中には      ちゃんとありますか?      あなたは落としていませんか?
      私の手 T               母と手をつないだ      父と自転車に乗った      兄とぶどうを摘んだ      姉とままごとをした      折り紙を折った      ハーモニカを吹いた      絵を描いた      本を読んだ      手紙を書いた      花を活けた      布団を干した      夫のシャツを洗った      娘を抱いた      娘の手をひいた      小さなワンピースを縫った      おそろいのセーターを編んだ      バースデイケーキを焼いた      父の頬を撫でた      母の探し物を手伝った      まだまだいろいろ私の手      これからも      ずっといっしょ私の手
        選 択 U                   目の前に差し出された      赤いりんごを受け取った      後からみかんもあることを知った      でも受け取ったのはりんご      「みかんもあるよ どっちがいい?」と      訊いてくれなかったのだろう      見えないところに      バナナやいちごやぶどうが      あったのかもしれない      でも受け取ったのはりんご      りんごが嫌いなんじゃない      他の方が良かったという訳でもない      「好きなの選んでいいよ」と      いろいろあることを教えて欲しかった      目の前のりんごを受け取ったのは私      「いらない」と断ることをしなかった      「他にはないの?」と訊くことをしなかった      自分で探してみようとしなかった      目の前のりんごを受け取ったのは私      それも一つの選択だったのだろうか
       旅の途中               誰もがみんな思ってる            私はどこから来たのだろう      私はどこへ行くのだろう      なぜここにいるのだろう      何をすればいいのだろう      何のために生まれて来たのだろう      空を流れる雲だって      目の前の小さな草だって      河原に転がる石だって      みんなどこからかやって来た      そしてまた      みんなどこかへ行ってしまう      みんなみんな旅の途中      ほんのちょっと      この星の      この場所選んで      立ち寄っているだけ      きっと私も      ホンの一瞬      この地球のこの場所に      旅の途中のひと休み      雲のように 草のように 石のように      いつかは通り過ぎて行くのだろう
       眠れぬ夜は                眠れぬ夜は      羊の数を数えてる      三千匹くらいは数えてる      眠れぬ夜は      そっと耳を澄ませてる      風の音 雨の音 闇の音      眠れぬ夜は      瞑ったまぶたのその裏に      映った海を眺めてる      眠れぬ夜は      聞こえぬ声で      なつかしい歌口ずさむ      眠れぬ夜は      誰かに手紙を書いてみる      心の中で言葉をいくつも並べてる      眠れぬ夜は      思い出のドア開けてみる      小さな私に会いに行く      眠れぬ夜は      深い闇のその向こう      明日の私を夢に見る
       前?後?                ときどき どちらがどちらか      わからなくなるときがある      それはいつのこと?      ずっと前よ       ずっと前?      そうよ ずっとずっと前のことよ      そうか 過去は前なのか      幸せは後から来るものなのよ      もっと後になったら      きっと幸せは来るのよ      そうか 未来は後なのか      あなたの後ろを見てごらん      あなたの歩いて来た道        ときには振り返って      後ろを見ることも必要なのよ      今の自分を確かめるためにね      そうか 過去は後ろなのか      あなたの前には      まだあなたも知らない      あなただけの道がある      そうか 未来は前なのか      歩き続ければきっと幸せは      前?後?にあるのかなァ
      選 択 T            もし与えられたものが      一つだけだったら      何も疑うことなく      それを受け入れるだろう      いろんなものがあることを      知らなかった頃は      多分それで良かった      でも二つ、三つ      もしかしたら四つ、五つあることを      後から知ったら      それはちょっとせつない      判断すること、決断することは      必要ないのだろうか      選んで決めたその一つと      与えられただけの一つでは      同じ一つでも      たとえ同じものだとしても      やはり何かが違う      その違いを      納得させることができるだろうか      せつなさを感じずに      納得できるだろうか
      目を閉じれば               目を閉じれば      心の中の小さな私      お下がりの水玉のブラウス      さくらんぼのアップリケのスカート      大事にしていたミルク飲み人形      母の作ってくれた      人形の花柄のワンピース      杉板の廊下      縁側のガラス戸      風に揺れている庭の枇杷の木      目を閉じれば      心の中の小さな私      父の自転車の前に取り付けられた      子供用の小さなイス      舗装なんかされていないガタガタ道      夕焼け色の町を      父と自転車に乗って      我家に向かっている      私の手には      夕焼けと同じ赤い箱の      クリームキャラメル      目を閉じれば      心の中の小さな私
      蛙 釣 り            白い木綿糸を      60〜70センチ長さに切る      その先に小豆粒ほどの綿を結びつける      そして池の面に糸を垂らす      揺れる綿をめがけて      蛙がパッと跳びつく      糸の先にぶら下げられた蛙を      手に取る      掌に仰向けに寝せて      白いおなかを指でそっと撫でる      蛙はまるで      うっとりしたように目を閉じる      その蛙をそっとそのまま      仰向けの状態で池に戻す      蛙はしばらくの間      ボーッと水に浮いている      そしてヒョイと身体をひるがえすと      スイスイと泳いで      どこかへ行ってしまう      40年前の夏休みだった      オゾン層の破壊が原因で      蛙の数が激減したと聞く      蛙は本当に      どこかへ行ってしまったのだろうか
      愛犬に贈る詩     ロンはロンになるために      生まれて来た ロンはロンになるために 我が家にやって来た 生後2ヶ月のとき 母親と別れて 我が家にやって来た ロンになるために やって来た 階段上がった一番上 いつもの場所で いつものように 玄関を見下ろしている 我が家にやって来て もうすぐ10年 我が家の居心地はいいですか? ここがあなたの居場所です 大事な家族 我が家のロン
     闇の向こう       夕暮れの舗道を                  振り返りもせず                   まっすぐに                      海への道を     ただまっすぐに     歩いて行く     夕暮れの街の匂いは     少しずつ遠ざかり     風に乗った汐の匂いが     様子をうかがうように     少しずつ     少しずつ     近づいて来る     海へ近づくその歩幅のように     街の雑踏が消えて行く     近づく夕闇が     過去の私を消して行く     本当の闇が訪れるとき     その闇の海の中で     生まれ変わろうとする私を     私の目で見つけ     私の手ですくい上げる     淡い消えそうな足元に     きっと朝日が差してくる     闇の向こうに     きっと明日が待っている
     色えんぴつ   例えば スケッチなんか いいかもしれない ごく単純に 青い空と白い雲 青い海と光る波 遠くの ちょっとぼやけた緑の山 すぐ目の前の 野の花と 小さな蝶々 心の窓も開けてみよう 子供のころ 住んでいた家族のいる家 台所の水おけに 浮いていた黄色いまくわうり 艶やかな赤いトマト 裏の畑 並んでいたとうもろこし 塀のそばの枇杷の木 忘れないうちに 忘れないうちに 心の風景 心のスケッチ
     出会うために         さようならを言おう     ちょっと違う自分に     なるために     ちょっとの間     さようならを言ってみよう      新しい自分を見つけるために      新しい自分に出会うために     昨日までしていたことを     ひとつやめてみよう     鏡に写る姿を     見るのをやめよう     その分     初めてのことをひとつ     やってみよう     棚にしまったままの     使ったことのない花びんに     花を一輪挿してみよう     心に花を     一輪咲かせた自分が     見えるかもしれない     本当の自分を信じよう
       空 へ       ラジオから     澄んだ空気の伝わるような     音楽が流れている     目の前に     行ったこともない知らない土地の     光景が広がって行く     こういう時間が好き     本当の目の前の     煩雑なことには     目をつむり     ぼうっとした時間を過ごす     想像の中を     小鳥になって飛びまわる     ちょっとの勇気を持てば     飛び立てるのかもしれない     目をつむらずに     本当の空へ
       模  索             空はこんなに晴れわたっているのに     もう春が     そこまで来ているのに     胸の中は     フツフツと不完全燃焼     青春時代      何をやっていたんだろう     情熱を傾けられるものは     なかったのだろうか     もっと捜し続ければよかったのに     うつむいても仕方がないのに     時計の針はもう戻らない     心の中には雲が広がる     巡り来る春の足音が     胸の中をせつなくする