銀鏡五七五
村の中心に銀鏡(しろみ)神社があります。
毎年12月の例大祭には村外で暮らすひとたちが帰ってきます。
「かぐらみーに帰って来たっちゃね。」「盆にも帰って来っちゃろ?」
同郷人同士の合言葉になっています。村の人口210人 世帯数111戸 (2016年1月1日現在)。
「くろまめの俳句」の中から、銀鏡を詠んでいる句を載せています。
俳号 しろみ そら
|
2017年
台風過筧にたまる水のしわ
野の花を足して供へる秋彼岸
縁側の湯呑み人肌あきつ飛ぶ
ねんごろに墓洗ふ父見詰む母
桐の花移住者募る村役場
万緑や先頭を行く押し車
老鶯や西南戦の猛者の墓
春田打つ影くつきりの白むすび
春めくや庭木を移す結の村
「結(ゆい)とは、主に小さな集落や自治単位における共同作業の制度である。
一人で行うには多大な費用と期間、そして労力が必要な作業を、集落の住民総出
で助け合い、協力し合う相互扶助の精神で成り立っている。出典:Wikipedia」
けざやかに太鼓とどろき初神楽
一月や堆肥固まる谷の村
2016年
診療所の消灯時間オリオン座
埋火や村の寄り合ひ回り宿 藁葺き屋根と囲炉裏の暮らしの頃。演芸会も開かれていた頃。
風呂吹や猫の舌持つDNA 熱々のふろふき大根を食べれない人も(笑)
小春日やほだ木を起こす漢の声 漢:男。ほだ木:シイタケ栽培の原木。
山桃酒母のおもひの沈殿す
薪風呂の小窓開ければ秋の色
大股の父と杖つく母の花見かな
麦を踏む日は天中に谷の村
餅花や系図に養子多かりき
補聴器を確かめ合ふて初電話
しつかりと答へる父よ日脚伸ぶ
2015年
少年の腰幣清き里神楽 銀鏡神楽「式三番 花の舞」
直会の果てて熟柿を吸いにけり
かうかうと山気降り来る盆踊り 「山ん盆祭り」
秋めきて独鈷の水を汲みにけり
「独鈷(どっこ)の水」弘法大師が独鈷杵で湧き出でさせた霊水。(地名「杖立」の由来より)
朝顔や土間掃く母の片えくぼ
ベゴニアや名前で呼ばるる診療所
さなきだにふるさと遠しなすの花
鹿の子百合耳の良き母疎き父
河鹿鳴くいかにおはすか父母よ
2014年
しぐるるや明かりの点る駐在所
母が踏むミシンのリズム小六月
起立礼生徒五人の野菊晴
ならぶれば祖父母にさ似る隼人瓜
神木の大杉消ゆる霧の村
コスモスや村の鍛冶屋の昼休み
母の日の畑より母の初メール
山笑ふブリキの看板ボンカレー
田楽や裸電球点る頃
すかんぽやどの子も短靴長ズボン
初明かり祖父の植ゑたる杉高し
見覚えの父の肩幅四方拝
2013年
寒晴れや角とれし友まろき友
秋日影わつぱ蒸篭の干されあり
どんぐりや谷に流るる祝歌
鳥おどし百十一戸の朝ぼらけ
秋澄むや父の桐下駄白鼻緒
清流やうす緑なる新豆腐
柿の花生家の棟札現はるる
薩軍の越えたる峠夏薊
ひよつとことおかめになりぬ一夜酒
村おこしの話ふくらむ新茶かな
ほろ酔いがうたふ寮歌や夏の月
2012年
夏めくや大きな皿を並べたり
水平に遠くを眺め烏の子
柿もぐや猪除けの網張り終えて
隣人の笑顔こぼるるむかごかな
曼珠沙華歩めば土のやはらかし
朝霧の杜に合祀の神楽かな
新任の先生のゐて村祭
足裏の白さ自慢の川遊び
谷わたる風のもつるる祭かな
肩幅広き父の日の父よ
2011年以前
正露丸の染みたる木箱冬の雨
菜の花やあやとりの子の祈りの手
煮凝りや忘れかけたる人に合ふ
山柿や隣の采の分かる村
てぬぐひのほつれごくぼそいわし雲
やまあひの神楽囃子や秋澄めり
座奉行の盆も踊るよ里神楽
ちちははに素足を見せる三姉妹
母の日の母の電話のこそばゆし
寒晴れや金平糖の角いくつ
新しい予定の立ちて暦買ふ
あたたかな雨であります実千両
初冬の記憶のとびら軋みけり
神面を背負ひて集ふ里神楽
篠笛の一拍休み里神楽
ちやんづけで呼び合ふ村やのうぜん花
麦秋や周波の変はる橋を超え
青蛙風になびかぬこころ持て
かけまくもかしこみまうす早苗かな
薫風や予約開始の産地便
のどかさやランプの火屋を磨く音
風光る百葉箱の錆びた釘
菜の花やそろばん揺るる下校の子
七草やたれにも母の言葉あり
電柱をのこして暮るる今日の秋
薄目してみたくなりたる樟若葉
しんがりをつとめて母の初湯かな
半鐘の黒々としてあたたかし
菜の花やひとり遅れるランドセル
村ちぢむ時三方の山眠る
物干し場より母のハミング聖五月
麦秋や四角い顔の三代目
ふるさとや社家に生まれて石蕗の花
縄を綯ふ父の全身日向ぼこ
産土の三社の木の実拾ひ合ひ
この谷に七十余年や葱坊主
蜩やわけても杉の豊かなり
たまんにやあよつていかんね秋の蠅
字二つ消えたる村や曼珠沙華
墓残り人帰り来るあかのまま
五厘刈のあつけらかんやつくつくし
八月や先頭を行く在所の子
猫ふんじやつたオルガンの夏休み
炎天に肩を怒らせ御幣たて
てぬぐひの端のめだかに目のありぬ
末枯やなにうたうても浪花節
つり橋のきしきしと鳴る神無月
啄木鳥や村の人口二人増え
この子らの肩甲骨や雲の峰
ねむごろに塗箸あらふ春夕焼
凍蝶や朝礼台の影蒼き
柊の花や村に俳優来るうはさ
竹の子の皮を剥ぐ音がぎぐげご
落雲雀大泣きをして生まれくる
誘惑に負けるな蜷の道真すぐ
初空や肩のほとりに神あらん
侍の鎧のやうな歯朶枯るる
朝霧の村や太鼓のとどろきぬ
縁側に正座の子をり秋彼岸
焼け跡の石垣高し花南瓜
自転車で家出してみる夏休み
縁側に父母のゐて夏座敷
樟若葉これより神事仕る
げんげだやあの子がほしい花一文
鳥曇に曽祖父の鍬洗ひをり
少年の石飛びわたる春の谷
にえの猪十頭並び里神楽
寒烏V字の谷に社家のあり
闇を張る結界七里里神楽
法螺貝の谷間にみつる里神楽
法螺貝もまじりてゐたる里神楽
しぐるるやくつぬぎ石に靴二足
山腹に朱の鳥居あり金縷梅
まんさくや谷に三社の御神面
秋祭懸垂出来た帰り道
水洟や御幣担ぎの一大事
はこべらやかすかに立ちぬ日の匂ひ
冬の空メタセコイアの細き幹
のみしらみかぞへながらの日向ぼこ
十七の私が見える夏の雲
田の神に折り目を伸ばす鯉のぼり
ゆるやかに風わたるなり今年竹
春夕焼帰りの道の細くなり
|