木曜日の風のいろ5

 10年ほど前、心が折れそうになることがあって、、、逃げ出したい、、、抜け出したい、、、
 でも、それ以前に、なぜ自分がここに居るのか、なぜこういう状況に直面しなきゃいけないのか、
 自分を納得させるために、自分に問いかけ、向き合わざるを得ませんでした。
 そんな暗中模索の中、自然発生的に生まれ出てきた言葉たちです。
 今もまだ、完全に吹っ切れた訳ではないのですが、、、、今日は今日の風が吹いています。
 九州の空の下より風に乗せてメールを送ります。
 お読み頂けたら幸いです。  (はるか)




   生きること (2014.12.25)      誰かに愛情を注ぐとき      それは      自己の犠牲の上に      成り立っているのだろうか      誰かに愛されているとき      その愛は      自己の人生を生きていく上で      重荷になるものだろうか      人はひとりでは行きられない      生かされていることは      重々分かっている      でも      誰かのために生きているとき      その生が      自己のためではないと悟ったとき      その誰かを      見捨ててしまうのか      自己を封じ込めた生を生きるのか      生そのものを終わらせてしまうのか      究極の選択を迫られる      苦しくても辛くても      切なくても胸が痛くても      自己の生を生きていかなければ      誰かに愛情を注ぐとき      それは      その誰かのためではなく      自己が生きるために      必要なことだからなのだ      誰かに愛されているとき      その受け取る愛は      自己のためのものではなく      その誰かが生きるために      必要なことだからなのだ
   表 現 (2014.12.18)      クレヨン      絵の具      色鉛筆      ポスターカラー      サインペン      いつも      何か描きたくて      いろいろな色を      試して来たけれど      いつも      何かが足りなくて      なかなか      描き表せないでいる      今もまだ      心の色は      心の模様は      心の中で浮き沈み…      きっと      もっと      もがかなきゃいけないんだろうね      自分の      人生の最期に      描きあがったら      いいのかな      たとえ      思い通りではなかったとしても
   会 話 (2014.12.11)      今日は何をして過ごしたの?      ○○を散歩してね      ○○の花がきれいだったよ      ○○さんとのおしゃべりが楽しくてね      そんな答えが返って来る気がして      つい昔のように尋ねてしまう      ご飯はおいしい?      夜はよく眠れるの?      返答に困らないことを問えば      うん うん と頷いてくれる      安心安全な生活があるのだから      何も尋ねなくたって大丈夫なのに      その口から出る言葉を聞きたくて      他愛もない会話をしようと      試みている
   風のように U (2014.12.4)        目に見えるものだけが全てじゃない      案外      目に見えないものの方が信じられるのかも      空気      確かにここにある      息がちゃんとできてるもの      電話の向こうの友の声      聞けば安心できるもの      音楽      心地よい気持ちにさせてくれてるものね      目に見えるもの      形のあるもの      いつか色あせゆがんで      その姿を失ってゆく      姿かたちを持たなければ      失うこともないのかな      って      思っただけ      風のように存在していたいなあ      目には見えないけど      今      通り過ぎたよね      って      それくらいの感覚で      生きていきたいなあ
   悲しみの色 (2014.11.27)      夕暮れどきの空は悲しいです      細い三日月がひとりぽっちで浮かんでいます      悲しみ色の雨も降りそうです      明日もまた悲しみが普通の顔をしてやって来るでしょう      私のまわりにあるものは      悲しみだけを食べています      空の青 海の青 山の青      みんなみんな悲しいです      人々から放たれた悲しみを吸収して      青く青く澄んでいます      その中で      私も悲しみ色に染まっています
   絶 対 (2014.11.20)      自分の中に      「絶対」はあるだろうか      昨日は、これで良し、と思ったことも      今日は、ちょっと待って、と思うこともある      昨日は、嫌だ、と思ったことも      今日は、受け入れられるのかもしれないし      家族ですら好みは異なる      絶対この味なんてものはない      他人となればなおさらのこと      十人十色千差万別      人それぞれ      好みも思考も信念も      でも      少しはあった方がいいのかも      絶対とまでは行かなくても      せめて      これだけはと思えるもの      たとえ      昨日思ったこととは違っても      明日の気持ちは分からなくても      せめて      今日はこれと言えるもの      明るい色を着れば良かったのに      今日の服はブラウン      暗い気分のままの暗い色      友達との約束      一週間先が月末まで延びてしまった      また延びるかもしれないし      やっぱり      「絶対」なんてものはないんだね
   自由に (2014.11.13)      涙をこらえた      唇をギュッとかんだ      手を握りしめた      振り返っても      戻らない年月      飲み込んだ言葉の数々      諦めたことの数々      今ごろ      解き放たれた想いたちは      小さな羽根をつけて      自由に飛び回っているだろうか      せつなさを知って      はかなさを知って      飲み込んだ言葉は甦らなくても      諦めたことはもう叶わなくても      せめて      この青い空が続いている限り      降り注ぐ日差しがある限り      私の想いたちは      自由に飛び回っていると信じたい
   緑色の気持ち (2014.11.6)        風に揺れる草のように      しなやかな気持ちになりたい      まっすぐに上を目指す若木のように      凜とした気持ちになりたい      どっしりと構える山のように      おおらかな気持ちになりたい      せめて      緑色の服を身にまとえば      そんな気持ちを少しは持てるだろうか      ひと針ひと針縫ってみようか      草の気持ちを      若木の気持ちを      山の気持ちを      思い描きながら
   今は (2014.10.30)      この空の青い色を      ほんの少し分けてもらえたなら      ちっぽけな心は      すぐに染まってしまうでしょう      七色の虹を      青く染めた心にかけたなら      たまには      夢を見ることを      思い出すでしょう      夕暮れどきの茜色      あかく染めてみるのもいいでしょう      子供の頃の純粋な瞳を      思い出すかもしれません      暗い闇も      こわくはありません      ずっとずっと昔の人も      闇の中に      月や星の明かりがあることを      知っていました      その闇さえも      続くことはないのです      闇の後には      また      きっと      新しい青空が広がることを      今の私は      知っているのだから
   二行詩(続き) (2014.10.23)      小さな額入りと立て掛けた写真集の表紙      二人のヘップバーンが微笑んでいる      カップは義妹からのプレゼント      三十年来の愛用品      イチゴのショートケーキもアップルパイも      白いお皿はなんでも受け入れてくれる      つゆくさ のぎく あかまんま      はじらうように咲く花が好き      男性5人のボーカルグループ      ハーモニーに癒されている      便箋も付箋紙も      つい花柄を選んでしまう      白い紙にマスキングテープを貼ってリボンを結ぶ      本好きの友達にもおすそ分け      キッチンのカウンター用と職場のサイドテーブル用      モスグリーンで2枚お揃い      透明のスワロフスキーとパールを使って      小さくてもキラリと輝く      窓の向こうの空はすっかり夕焼け      色を映した雲は風まかせ      春の気配 夏の気配 移り変わってゆく      ほんの短い時期に心惹かれている
   一行詩(好きな時間) (2014.10.16)      オードリー・ヘップバーンの写真を飾る      ミルクたっぷりの紅茶を入れる      白いお皿にチョコケーキを乗せる      小さな空きビンに野の花を挿す      好きなCDを聞く      花柄のメモノートを使う      本の栞を手づくりしてみる      小さな丸椅子に毛糸のカバーを編む      ビーズのペンダントトップを作る      窓の向こうの空を眺める      秋の気配を感じる
   ひとこと (2014.10.9)      そんなことないよって      言って欲しかった      大丈夫だよって      言って欲しかった      自己嫌悪だとか      劣等感だとか      罪悪感だとか      そんなものが渦巻いて      抜け出せなかった      背中をまるめて      ひざを抱いて      いつも浅い息を      くり返していた      なんてことないんだよって      背中にそっと      手を置いて欲しかった      誰だって      顔を上げられないときがある      小さなできごとに      怯えてしまうときがある      そんなときでも      あたたかいひとことで      救われることがある      だから      そんなひとことを      言って欲しくて      あなたに背中を向けていた
   雨 (2014.10.2)      雨の音…      雨の声…      何?      何か言ってる      ひとりじゃないよって      屋根にあたったり      窓にあたったり      葉っぱにあたったり      月をかくし      山をけぶらせ      地面をぬらし      池に落ち      川に流れ      雨つぶもひとりじゃ寂しいから      たくさんの仲間と一緒になって      その存在を知らせてる      ささやきながら      歌いながら      空から      大地へ      海へ      旅を続けている
   すぎぼっくり (2014.9.25)      たかいたかいすぎのきに      ころころころころ      すぎぼっくり      まつのきに      まつぼっくりがあるように      すぎのきに      すぎぼっくりがあるんだよ      まつぼっくりにそっくりで      ならべてみたら      ふたごのきょうだいみたいな      すぎぼっくり      ころころころころころがって      たかいたかいすぎのきと      そのまだうえの      たかいたかいおそらをながめてる      ころころころころすぎぼっくり      だれかがひろってかえるかな
   風のように (2014.9.18)      ふっと消えたくなったことは      ありませんか      満天の星空がとてもきれいで      痛くなるほど首を上に向けて      眺めていたら      吸い込まれて行きそうな気がして      星空に昇って行く自分が見えた気がしたのです      いつもの川沿いの道を通って      いつもの橋を渡ろうとしたとき      ふっと橋の上から自分が消えた気がしたのです      これじゃ高さが足りないなァ      この水量じゃ海まで      連れて行ってもらえないなァ      そんなこと思ってる自分がいたのです      ほんとはこの場所から      消えるなんてことはできないけど      風のように      通り過ぎることはできるのかな      なんて思っています
   一瞬の感覚 (2014.9.11)      眠りという暗い闇の中に      落ちていく前の      ほんの一瞬      身体がフワッと      すべての束縛から      解き放たれるように      ほんの一瞬      フワッと軽くなって浮くような      そんな感覚を      覚えることがある      この感覚を味わうために      夜の訪れを待っている      この感覚を味わうために      身体を横たえる      闇への恐怖は微塵もない      この一瞬があれば      その後に続く暗闇さえ待ち遠しい      この一瞬に出会えれば      深い闇は暖かくさえ感じられる      眠りという闇は      暖かい光りで      私を包んでくれる      そのために      この一瞬は      用意されている
   意 味 (2014.9.4)      生まれて来た意味なんて      生きてる意味なんて      あまり考えもしなかった      煩雑な日常に追われてバタッと眠ってしまう      そんな日々のくり返し      子育てはもう終了したけれど      親の介護やこれからの先行きなど      まだまだ不安はあるけれど      そんな中でふとわいて来た疑問      なぜここにいる?      違うところにいれば違う何かが…      井の中の蛙は抜け出すことを知らず      考えれば考えるほどグルグルまわってばかり      でも答えも同じようにわいて来た      ここにいるからいる      ただそれだけのこと      井の中から見上げる空は小さいけれど      その空はどこまでも続いていると知ったから      生きることそのものが生きる意味      何も考えなくても      答えはそこにあると思うから      だからここにいても大丈夫      母にとっては娘として      娘にとっては母として      夫にとっては妻として      いまを生きるひとりの人として
   S先生へ (2014.8.28)      山のようにそびえています      でも絶壁なんかはありません      たどり着かなければならない      そんなてっぺんなんかもありません      裾野は広く      懐はとても深いのです      登山家が      「山がそこにあるから登るのだ」      というように      そこに居てくれたから      見てもらいたいから      何か言ってもらいたいから      投稿を続けていたのかもしれません      私にとっては山でした      「ここへおいで」      と導いてくれる山でした      今もまだ      私にはそう思えてなりません      そう思っていていいですよね      出会いを頂いたことに      感謝します      ありがとうございました
   遥か彼方へ (2014.8.21)      生まれ育った土地を離れたときに      ふるさとは生まれる      遠くに住む人にとって      ふるさとは懐かしい場所となる      そのままそこに住み続けていれば      単なる現住所でしかない      ふるさとのない人間にとって      懐かしむ場所はどこにあるのだろう      心のよりどころはどこなのだろう      それはきっと…      そこはきっと…      見果てぬ夢を追い求めるように      見知らぬ大地を探し      見知らぬ空に想いを馳せる      どこかに何かがあるようで      いつまでも心の旅は続く…      遥かな空の彼方にも      遥かな海の彼方にも      もう探しはしない      私自身の中にある      そういう自信の持てるまで      遥か彼方への      憧れは続くのだろう
   六枚屏風 (2014.8.14)      高崎山は      日常の風景に欠かせない      その高崎山と並んで      同じ形をした山が      六枚連なって      屏風のように見える      私が目にしているのは      いつも四枚      どこに行けば      六枚並んで見えるのだろう      どの山とどの山が加われば      六枚になるのだろう      昔 父から聞いた      「六枚屏風」      父は行ったことがあるのだろうか      日常の風景として見ているのに      高崎山のほかは名前すらよく知らない      ちゃんと聞いておけばよかった      六枚連なって見えるところに      一度行ってみたい      心残りにならないうちに
   連詩 二番手 二編 U     他 一編 (2014.8.7)       一) たくさんの人々から放たれた      熱い思い 悲しい思い      爆撃機が奪っていったものたち      逃げ惑うものの叫び声      散った命も今から生まれ来る息吹も      星として風として      今このとき生きるものの上を      時空を越えて廻り続けている   二) 雨つづきの後久しぶりの青空      台風の被害にあった梅の木が      半分倒れたまま      さわさわと枝の葉を      風に揺らせている      あったこともなかったことも      すべて忘れるように      季節は一歩先へと進んで行く      表の道から裏の勝手口までの      日のささない路地      裏庭の手押しポンプ      汲み上げられた井戸水      浮かべられた赤いトマト      黄色いまくわうり      おやつに食べたぐみの実      縁側から見た青い空と白い雲      一片一片の思い出たち      鮮明な夏の色の思い出たち
   還 る (2014.7.31)      空にかえりたいとか      海にかえたいとか      ぼうっと眺めては      ぼうっと思ってた      畑を作るようになって      野菜を育てるようになって      土を耕していると      土の中には      石ころや      草の根っこや      虫たちが      ころころわやわや      いろいろ出てくる      なんか楽しい      みんな一緒にいたんだね      みんな一緒に存在してるんだね      土にかえるもいいな      空には雲や雨粒や雪んこがいて      海には魚や貝や海藻がいて      どこもみんな同じなんだね      いつかはどこかに      還って行けるよね
   五行詩五編 U (2014.7.24)      なんだろう      胸のあたりにうずくもの      いつ埋めたのだろう      夢の種      今でも芽吹きたがっている      かわいい女の子      二人授かった      お母さんになれた      小っちゃな夢だねェ      でも大っきな愛だよ      あの空のように      あの海のように      あの大地のように      小さな小さな私の夢      大きな大きな心の人になること      好きなものがたくさんある      楽しいことがたくさんある      思い描いただけで      笑顔になれる      そんな時間を過ごすこと      悲しみを沈めた海がある      洗い流そうとする雨が降る      寄り添うように風が吹く      果てなく広がる空がある      いつかはここの土になる
   一歩ずつ (2014.7.17)      一歳を少し過ぎたくらいだろうか      小さな子がよちよちと      一生懸命歩いていた      歩けることが嬉しくてたまらないと      いうような誇らしげな顔をして      人はそうやって      人生の第一歩を歩き始める      曲がり角や坂道が      年を経るほどに増えては行くけれど      夢や希望を持ち      一歩一歩を重ねて行く      でも      ふと立ち止まることがある      今まで歩いて来た道を振り返る      過ぎ去ったことが脳裏をよぎる      今から歩いて行くであろう先を見る      示された道はない      あとどのくらい歩けば      目的地へ到達するのだろうか      昨日の一歩      今日の一歩      まだまだ遠いと思っていても      確かに一歩分は近づいている      不安がるよりも      勇気の方が大切なはず      最後の一歩まで自分の歩幅で      自分らしく歩いて行きたい
   孤 独 (2014.7.10)      太古の時代から長いときが流れた      二足歩行をするようになり      思考をするようになり      コミュニケーションを持つようになった      でも      どれだけのときが流れても      いくら文明が発達し      繁栄の世の中になっても      退行していくかのような深い闇      夜明けを望んだはずなのに      光を求めたはずなのに      一人で居ても      二人で居ても      十人居ても      その中の孤独      社会が広がれば広がるほど      途方もなく立ちすくむ      時間を      意識を      共有できるはずもなく      理解し合うこともない      眼を見開いても闇は続く      太古の時代へと逆行するかのように      大地は揺れ      火山は火を噴く      ポツンと浮かぶ泡が      それぞれの孤独を抱えたいくつもの泡が      ときの渦の中へと      飲み込まれて行くようだ
   星というもの (2014.7.3)      地球質量の70倍      巨大な核を持つ惑星が      太陽系外で発見された      地球から260光年離れているらしい      土星より一回り小さく      密度は2倍      ヘラクレス座の方角だという      直径まで分かる例は珍しく      中心核の岩石や氷の成長など      惑星形成理論の再構築を迫られる      と専門家は驚いているらしい      何がどうなのか      一般人には理解のしようもないけれど      リロンとロマン      響きが似ているね      って思ったよ      リロンにもロマンにも      日常はほど遠いけれど      今見えているあの星にも      何かの物語が存在するのかも      地球から星を見るように      どこかの星から      地球を見ている誰かがいるのかも知れないし      たまには      夜空を見上げてみよう
   連詩 二番手 三編 (2014.6.26) 一) 探していたものは何だったのだろう    見つけたものは何だったのだろう    握りしめていたものは…    手放してしまったものは…    波間に漂う白い花    波間に消える白い花    どこにたどり着くのだろうこの思い 二) 確かにあった    探していたもの    その瞳に映っていた眩しい光り    あの頃の胸にときめく眩しい光り    今も消えることはない    あの空の向こうにあると    確かにあると    今も信じていたい 三) 飛べない鳥がいた    波間に漂う鳥がいた    鳥の瞳に映っていたものは    果てしない青い海    果てしない水平線    青い空に浮かぶ白い雲    夢に見ていた飛び立つことを    見えなくなるまで飛ぶことを
   赤きバラ七句 (2014.6.19)      写メールのバラにはバラの憂ひあり      ため息を隠して凜と赤きバラ      赤きバラ過ぎゆく日々にも刺ありて      刺させば滲むは赤きバラの色      赤き血の流れておるや赤きバラ      赤きバラ吐息隠して空仰ぐ      広き世は知らぬも多し赤きバラ
   ウィンクをして (2014.6.12)      もう考えごとなんかしたくないって      頭の中が言っている      そうだよねって心の中も言っている      ごはんだって食べ過ぎない      夜更かしだってし過ぎない      何ごともほどほどにするのって難しい      そんなこと思っていたそんなとき      ちょうどなってしまったモノモライ      洗面所の鏡の前で      痛いなァ うっとうしいなァって      マイナス思考が働いた      鏡の中のつむった片目を見て      アァこれってウィンクだ      世の中を半分だけ見てる      これって案外悪くはないかもしれない      良くなるまでの数日間      ウィンクをして過ごしていると思えばいい      ちょっと出て来たプラスの気分      半分笑って半分だけがんばろう      そんな気持ちで      洗面所を後にした
   見上げれば空がある (2014.6.5)      「良いも悪いもなく      そのままの自分をそのままに認める      そうすれば自ずと理解へとつながる      自分を理解すれば      人をも理解することができる」      うーん 難しい      でも少しだけ なーんだ という気分      そうか そのままか      迷う必要もあがく必要もない      そのままを受け入れる      自分も 人も      考えだしたらきりがない      と思っていたけれど      考える必要すらなかったのかもしれない      そのままをただただ静かに      じっと見てみる      じっと見ている      山は山のままに      海は海のままに      手を伸ばそうとさえしなかった空に      おそるおそる手を伸ばしてみた      やっぱり届かないことに気がついた      よかった気がついて      空は空のままに      見上げればあたりまえのように      ここの空がある      無限の空がある
   五月の朝のこと (2014.5.29)      デイサービスに行く夫の両親が      迎えの車に乗り込み      出発するのを見送ったいつもの朝      部屋に上がる前に庭の水やりをした      片隅に置いた小さなカメに雨水が溜まっていた      杓ですくい植木鉢にやった      乾いた土に水がしみ込んで行った      何度かくり返すうちに      ふと 水と同じだ と思った      鉢の土はまた乾くだろう      蒸発した水分は大気中を漂い      空高く上ってまた雨となる      蒸発したからといって無くなる訳ではなく      形を変えて存在している      だからまた雨となって姿を現すことができる      循環しているんだ      今 肉体を持って生きているけれど      この肉体を失うときが来ても      焼かれて煙となったとしても      姿を変えて存在している      そしてまたときが満ちたときに      見合った肉体を持って生まれて来る      いつどこで蒸発しいつどこで水として      姿を現すのかわからないように      いつどこでどんなふうに生まれるのかは      わからないけど      いろんな意識や記憶を共有している存在が      見えないだけできっとたくさんいるんだ      そんなことを思って見上げた五月の空は      光の色をしているようだった
   箱 庭 (2014.5.22)      ここに山を作ろう      ここには海      山あいには谷や川があって      小高い丘には花を咲かせよう      幼稚園や学校も作らなくちゃ      道を作ってつないだら      隣の街もできたよ      ちょっと離れてよその国      ずうっと離れてよその星      いっぱいいっぱい作ったら      どんどんどんどん広がって      大きな宇宙ができたんだ      小さな人や大きな人      虫や小鳥や動物たち      そうっと息を吹きかけたら      みーんな動き始めたよ      神様の作った箱庭の中で
   伝わる温かさ (2014.5.15)      二年前に十五歳で逝った愛犬が居た頃      その背中や頭を撫でてやりながら      ここに居るから撫でることができる      撫でているから温かさが伝わる      存在する不思議を思ったことがあった      人が作ったものにはその人の意思が働く      神様が作られたものには      神様の意思が働いているのだろう      今 私に伝わって来るのは      ちょこんと手に乗った小さな鳥の温かさ      巣から落ちて傷めた片足が使えず      体重を掌に預けてまあるくなっている      先の愛犬もこの小さな鳥も      ここに居ることは偶然なんかじゃない      神様が与えてくれた温かさを      このままそっと受け入れようと思う
   宝 箱 (2014.5.8)      東日本大震災の被災者に      同じ被災地に住む地元の報道カメラマンが      カメラを向けインタビューをしていた      顔をくもらせ涙を流して語る被災者に      最初は仕事として接していたカメラマンも      だんだんとカメラを下ろし同じ被災者として      語り合いいたわり合う場へと変わっていった      カメラマンが語っていた      共有した大切なその思いを宝箱にしまいたい      心の中の宝箱にまだまだたくさんの思いを      これからも集めていきたいと      度々の来日公演で有名な海外のサーカス団      その広報大使を務めるタレントが      活動の一環として大きな絵を描いていた      絵のタイトルが「宝箱」      驚いたり笑ったり歓声を上げたり      楽しい思いがギュッと詰まっているのだと      そんな思いを表したかったと言っていた      インテリア関係のデザイナーだったPさん      今は二人の子育てに追われている      今は家族のための空間作りに勤しんでいる      リビングやダイニング皆がほっとできる空間      彼女はその空間を宝箱と呼んでいる      台所での野菜の調理      普通なら捨てられる皮やヘタや芯や根っこ      一つの容器を決めてためていく      ある程度たまったらコトコト煮込んで      滋養と愛情のこもったスープへと変身させる      その容器を冷蔵庫の中の宝箱と名付けた人      偶然同じ時期目や耳に届いて来た宝箱たち      いろんな人がいろんな思いを入れて持っている      何でも受け入れられる宝箱      そんな柔軟性のあるものに      していきたいものだと思っている
   課 題 (2014.5.1)      何かが足りないと感じていた      衣食住もとりあえずはこと足りて      仕事に不満がある訳でもなく      与えられた一日の時間は      人並みに24時間      大方は問題のない日常生活と      積み上げて来た年齢に      相当するであろうそれなりの人生経験      何を      何を探している?      しなければならないことと      したいこと      して来たことと      これからして行くこと      意思とはかかわらないところで      進んで行く変わって行く      まわりのできごと      その辺りに生じてしまったギャップたち      どうしようもないことの多さを痛感せずにはいられない      時は      何もしなくても      過ぎては行くけれど      それだけでいいはずはない      せめて自分のことくらいは      かかわれることくらいは      少しでも納得のいくように      心で感じて動いて行かなければ      過ぎて行く時間ではなく      過ごして行く時間となるように      しなければならないことと      したいことの他に      させていただくことを探すことが      今の私の      課題と言えるかもしれない
   その後 (2014.4.24)      線路を走るはずの電車が      一瞬のうちに宙に舞った      たくさんの命が空に飛んでいった      胸の痛む映像が      何度もくり返された      事故処理の終わった線路の上を      電車がまた走り出した      走行のようすをニュースは告げていた      たくさんの乗客を乗せ      運転士は何を思って      電車を走らせるのだろう      乗客は何を思って      現場を通り過ぎるのだろう      私に乗る機会は多分ないけれど      きっと目を伏せずにはいられない      強い衝撃は今も脳裏に残る      何気ない日々の生活を奪われた人々の      無念の涙が今も心に浸みる      残された人々の心は      少しずつでも薄曇りになっているだろうか
   今なら (2014.4.17)      いつも走っていた      いつも逃げていた      ときには深い森の中を抜け出そうとして      ときには暗闇の中を手さぐりで      何に追いかけられているのかは      わからなかった      でも      追いかけられることが怖かった      つかまえられることが怖かった      いつも追いかけていた      いつも探していた      ときにはおもりのような重い心で      ときには浮草のように頼りなく      何を見つけようとしていたのかは      わからなかった      でも      このままではイヤだと思っていた      探せば見つかると思っていた      いつも夢中で逃げていた      いつも夢中で追いかけていた      いつも夢中で…      夢の中のできごとだった      今なら言える      夢の中の私に      追いかけていたのは私自身      何も怖がることなんかないんだよ      見つけようとしていたのは私自身      追いかける必要なんかないんだよ      今なら言える      足りないものなんて何もない      私はここにいる      幼な子のように      今日という日に包まれて
   傷 (2014.4.10)        使いなれた湯飲みだったのに      洗っている最中に      ふと手からすべり落ちてしまった      割れずに済んで良かったと安堵したのに      お茶を注いだときに      テーブルに輪を作っていた      土っぽい厚手のものだったので      初めは気づかなかったけれど      手にとってグルッと回してみると      よくよく眺めなければ分からないような      細いヒビが一本入っていた      アァ…やっぱり…      無傷でいられるはずはなかったんだ      表面からは分からない心の傷      内側に抱えたいろんな想い      いつの間にかしみ出てしまう      ながくたえ続けることは難しい      いっそ割れてしまえば      決断はたやすいのに      どっちつかずの優柔不断は      まるで私のよう      何気ない日常の中のひとこま      自分の迂闊さが      何気なく      心の中にも傷を作っている
   そんなこと (2014.4.3)      まだ朝もやが残る中      家を出発した      朝一の飛行機で大阪へ向かった      ほんのちょっとした所用      滞在時間は半日      最終便での日帰りだった      気忙しいと言えば気忙しいが      旅支度もいらない      バッグ一つでちょっとそこまで      便利な時代になったとつくづく思う      兄姉は飛んで行ったまま戻らない      私はたった半日      私には戻る場所があるんだと      街灯りを見おろしながら思っていた      一番地に足の着いた生活をしているのは      私かもしれない      飛行機という乗り物に乗って      飛べなかった空を飛びながら      そんなことを思っていた
   きっと (2014.3.27)      背中に羽根があったなら      それは誰でも願うこと      どこでもドアがあったなら      それは誰でも望むこと      でもここも      今このときも      まんざら悪くはないのかも      ここではない違う場所      まだ見ぬ未来のいつの日か      ああ あそこは良かった      ああ あのときは良かった      なんて      いつかは気づくそのことに      だからひたすら生きている      ぐるぐるまわってばかりでも      ちっとも進歩を感じられなくても      それはそれで仕方ない      それはそれできっといい      だからここで生きている      苦しみ悲しみ受け止めて      喜び楽しみもいつかはわかる      だから明日も生きてみる
   知りたいこと知らなくてもいいこと (2014.3.20)      あまりにも知らないことが多過ぎて      遠い世界のことならまだしも      すぐそばのいつもの道の      一つ手前を曲がっただけでも      並ぶ家      窓のカーテン      庭に咲く花      気付くこともなかった      知ろうともしなかった      小さな知らない風景      赤い花はなぜ赤いの?      いつから赤いの?      青い空は好き?      それとも夕焼けの方が好き?      水はどこから来るの?      あの雲はどこへ行くの?      星はなぜ輝いてるの?      ここはいいところ?      10年後は何をしているの?      私のことでさえ      私も知らない
   あるがまま (2014.3.13)      フェンスをめぐらし      門扉を閉ざし      ドアに鍵をかけ      窓をしめきり      何を守ろうとしているのだろう      その空間で得られるものは何なのだろう      こぼした涙もらした吐息は      数知れず      カーテンのすき間の光さえ      シャットアウトして      いくら自分の小ささを嘆いてみても      そこには      背をさすってくれる人も      微笑んでくれる人も      居はしない      小さな木の葉さえ風に飛ばされて      未知の空間をかけ抜ける      流れ星は自分の着地点など      知りはしない      それでいい      何も求めずあるがまま      窓を開ければ      鍵をはずせば      また暖かい風が吹いてくる      からだ一つで歩き始めれば      いつかは      心に光がさしてくるのだろう
   ほんの少しだけ (2014.3.6)      閉じた瞳の向こうは      夢の世界への扉      草原の上に広がる青い空      森の梢を吹き渡る風      海面の波のきらめき      宇宙に瞬く星の数々      開ければ何が見えるかは      その時の望み次第      瞳は閉じていても      想像力を働かせれば      いろんなものが見えてくる      現実にはありえないことでも      夢の世界でならそれはできること      背中に羽根をつけて飛ぶことも      花のベッドで眠ることも      自分だけの星を持つことも      未来の住人になることも      ほんの少しだけ瞳を閉じて      ほんの少しだけ夢の世界へ      ほんの少しだけうたたねの旅
   意 識 (2014.2.27)      どこかに飛ばしたまま      何食わぬ顔で      日常をこなしています      日々の波に揺られ      こんなもんよと嘘ぶきながら      痛みも悲しみも怒りも      喜び楽しみ嬉しささえも      なければないで      どうにかなるものです      さくさくと落ち葉を踏む感覚      春はもうそこだというのに      妙に静かな気持ちです      澄んだ空に全てが      吸い込まれて行くようです      ただあの空と共に      今ここに居るということ      何も考えなければ      心をからっぽにすれば      楽に生きて行けそうです      何食わぬ顔で生きて行けそうです
   生の淵 (2014.2.20)      ゆらゆらと      さ迷っている      どこへ流れてゆくのか      分からない      どこへ流れてゆこうと      かまわない      一歩進んだその先に      暗闇待っていようとも      何の不安もありはしない      今      漂っているこの淵さえ      虚飾の風が吹いている      濁った水がせめぎ合い      黒さを増して波立てる      いずこの淵も同じこと      生きてる限りは同じこと      今しばらくは生の淵      木の葉のようにさ迷えど      たまには      ここにいることの証しだと      あぶくの一つも吹き上げる      ぱちんと弾けて何見える      たった一筋の光など      あるのかないのか      まだまだここは      生の淵
   も や (2014.2.13)      見えているはずなのに      見ていないことのなんと多いことか      ときどきふとため息をつきたくなってしまう      覚えていない思い出せない      さっきのあの人何色の服を着てたっけ      本屋で立ち読みしたあの本      タイトルは何だっけ      もともと気にとめるほどのことでは      なかったのかもしれない      だからあまりにもあっさりと      目の前を通り過ぎ      うやむやに消えて行ってしまうのだろうか      そういうことの多さに      ときどき愕然とすることがある      鮮明に目の裏に記憶の中に心の中に      焼き付けることができなくなっている      それはきっと      霧の晴れないもやの中に      住んでいるからなのだろうなァ
   ゆうらゆら (2014.2.6)      何かのボタンを一つかけ違え      何かの歯車が一つかみ合わず      ギシギシと      上すべりをくり返している      音も立てずに波がしのび寄り      砂のように足元からこわれて行く      心の安らぐところは…      居るべきところは…      小鳥のように枝の上でさえずること      魚のように水の中で眠ること      求めているものに手が届かず      その求めているものさえ影は薄く      まわりのものも全ては幻かもしれない      踏みしめる大地など      歩むべき道など      ましてやどこかへ飛んで行く翼など      もともとありはしない      一本の糸で吊されたような宙ぶらりん      風に揺られてゆうらゆら      どこ吹く風と受け流そう      そんなに悪くはないかもしれない      風とともに生きて行こう
   暮 ら し (2014.1.30)      インドネシア東部のフローレス島      太古のジャワ原人から進化した人類が住んでいたらしい      28000年も前の話      空は今の空よりずっと青かっただろう      海は今の海よりずっと澄んでいただろう      高度な文明なんかなくても      便利なものなんかなくても      木の実や魚をとり      石器や火を使い      今よりずっと豊かだったに違いない      たっぷりの時間と      たっぷりの自然と      明るさをもたらす太陽と      闇に瞬く星たちと      共にある暮らし      シンプルゆえの充実感      生きている実感      他に何を望む必要があるだろうか
   砂の上で (2014.1.23)      こつこつと築いてきたものが      いつの間にか      足元に忍び寄った波にさらわれて      気付かぬうちに形をなくしてしまう      きっと小さな波はいくつもあったのだろう      どの波が原因かなんて      認識もできないままに      月日は過ぎていく      そしてまた気付かぬうちに      次の形を求め      日々の積み重ねだと      自分に言い聞かせながら      こつこつと同じことを繰り返し      この場所を動けないでいる
   理 由 (2014.1.16)      どうしても気になるというわけでもないのに      ふいに何かにとりつかれたように      ガスレンジを磨いてみたり      靴箱の中を片付けてみたり      空が青いのか      闇に包まれているのか      そんなことは少しもかまわない      日差しの中を小鳥のように羽ばたいた方が      布団にもぐって水底の魚になった方が      余程ましだと思うのに      時計の針が進んでいることも      時を止められはしないことも      分かっている      抗っているのではない      流されているつもりもない      ただ納得させるために      何かその証しを残すために      息をしているだけということに      怯えてしまいそうだから      ただひたすらに      何かをしている自分でいたいと思うから
   チャンス (2014.1.9)      待ってるだけじゃ      いつまでも訪れてはくれない      自分から見つけに出かけなければ      もしかしたら      自分で作り出してしまう方がいいのかも      うかうかしてたら      行ってしまうし      うかうかしてたら      つかみそこなってしまうから      その運さえも実力のうち?      自分にハッパをかけなくちゃ      ガンバレわたし!      より良い明日を見つけるために