木曜日の風のいろ3

 10年ほど前、心が折れそうになることがあって、、、逃げ出したい、、、抜け出したい、、、
 でも、それ以前に、なぜ自分がここに居るのか、なぜこういう状況に直面しなきゃいけないのか、
 自分を納得させるために、自分に問いかけ、向き合わざるを得ませんでした。
 そんな暗中模索の中、自然発生的に生まれ出てきた言葉たちです。
 今もまだ、完全に吹っ切れた訳ではないのですが、、、、今日は今日の風が吹いています。
 九州の空の下より風に乗せてメールを送ります。
 お読み頂けたら幸いです。  (はるか)




   赤い花 (2013.6.27)      山々に囲まれた小さな山の遊園地      その遊園地下のバス停に      小さな女の子が忘れて行ったのか      ポツンと置かれた赤い傘      バス停のすぐそばは草野原      遠くから見るとまるで      草野原に咲いた一輪の花のよう      誰かに忘れられた小さな赤い傘      きっと不安な気持ちで      いるのだろうけど      持ち主の手に戻るのが      きっと幸せなのだろうけど      なんだかいつまでも      そこに咲いてて欲しいと思ってしまう      無くなってしまったら      淋しくなってしまいそう      ポツンと咲いた赤い花      誰かの小さな赤い傘
   夏が来る前の (2013.6.20)      じとっとした雨のこの時期      吸い込んだ重い空気が      肺の中に      身体の中に      じわっとたまって行く      頭を下げて      しょぼっとしている草や木の葉も      この水分を      身体に取り入れている最中なんだ      この後に来る強い陽射しを      乗り切るために      カラカラの大地に      へこたれないために      今      思いきり吸い込んでいるんだ      今が大事なんだ      待ち遠しいすかっと晴れた空      弾けるような暑い夏      でも      その前のこの重い空      湿ったこの空気      生命を育むには      欠かすことができないんだ      だから      雨に打たれても      重い身体でも      がんばっていられるんだ
   夢の光景 (2013.6.13)      ある夜の      夢の中の光景      その町並みは      たぶん昭和初期      家並みや外灯に      そんな空気が流れている      勤め帰りのような女の人が      夕闇の中を      だんだん近づいて来る      外灯が      女の人の姿を      だんだん浮き立たせて行く      影が濃くなって行く      外灯が      女の人の姿を      顔を      捉えたとき…      その女の人は      私だった…      いつもぼんやり空を眺めてる      いつも置き去られ感が拭えない      いつも取り残され感に苛まれる      生きにくい今のこの世の中      私はたぶん      こんな時代に生きていた      私はたぶん      こんな町に住んでいた
   水の影 (2013.6.6)      光りを受けるところがあれば      影になるところもある      その影に      小さな入り口を見つけたとき      私はほっとする      影の中に入って行けるから      光りを受けることよりも      影に寄り添うことに      安らぎを憶えるから      影につつまれている方が      私らしいから…      きらきら輝いている部分を      羨望の眼差しで見上げながらも      影の中から出て行けない      影の中から      丸く青い水の塊りの向こうを      ぼうっと見ている私がいる      いろんな光りを映す水の塊りが      ころころ転がって      砂の上から      姿を消したとき      消えた影の中から      どんな私が      姿を見せるのだろうか
   こぼれ落ちるもの (2013.5.30)      てのひらを器の型にして      受けとめる      雨のしずく      キラキラの木漏れ日      茜色の夕焼け      お月様のかけら      てのひらで      腕で      身体で      精いっぱい      受けとめたい      淋しさ      悲しさ      切なさ      受けとめきれなくて      私からこぼれてしまうもの      涙の粒や      ため息たち      できることなら      喜び      楽しみ      微笑みを      誰かのために      こぼしたい
   向こう側 (2013.5.23)      渡ろうとしている道の四つ角で      行き過ぎる車のタイミングを見計らいながら      私はふいに泣きたくなる      母の入所するグループホームを      訪ねた帰り道      世の中のもくろみや決まり事など      何の関係もなく      自分の時間の中で暮らす母      私にすれば非日常のような      その世界が向こう側にあり      この道を渡れば      ちょっとのあいだ抜け出して      また戻ろうとしている私の      ごく平凡な生活が待っている      その境界線のような      道の片側に立って      ホンの少し呼吸を整える      行き過ぎる車が途切れて      道を渡るとき      口を結んで涙は流さない      道の向こう側には      私のごく普通の毎日があるのだから      この道を渡れば      確かに私の帰って行く場所が      あるのだから
   水の記憶 (2013.5.16)      雨が降っていた      布団の中で丸くなった身体に      枕に押し当てた耳に      雨の音が聞こえていた      屋根の瓦にあたる音      窓のガラスにあたる音      木々の葉っぱにあたる音       雨自身に音はあるのだろうか…      意識と無意識の間をさまよう耳に      流れる音が聞こえた気がした      雨の音はいつのまにか      体内を流れる水の音と      同化していった       中も外も流れる音…       流れる音に包まれている…      それはまるで胎内のようでもあった      身体の奥底にある記憶      包まれている安心感       かつては誰もが母の胎内にいた…      水音の中を漂いながら      水音に誘われながら      眠りの世界へと降りていった      五月の母の日の夜更けだった
   雨の予感 (2013.5.9)      外は薄曇りの薄明かり      雨なんて降ってはいない      近づく夕暮れを感じさせるように      窓の外の気配がだんだん変わってゆく      自転車に乗った子供たち      制服姿の高校生      薄雲が広がってはいるけれど      暮れ色が増してはいるけれど      まだ傘は必要ない      それでも雨が見えている      心の中で置き傘を探している      老いた母が環境の変化を      受け入れている      帰りたいと言われたら      家の様子を問われたら      どうしようと思っていたのに      言わない母に問わない母に      胸を撫でおろしながら      健気ささえ漂わせる母に      私の方が励まされていると思う      飲み込んだ涙が      もうすぐ雨を降らせようとしている
   母のカーディガン (2013.5.2)      肌寒かったら着ればいいわ      というふうに母は      父のカーディガンを      ソファーの背もたれにかけていた      亡くなって何年も経つというのに      母はどうにかなってしまったのだろうか      父はとっくに居ないということが      分からなくなってしまったのだろうか      母の失くしたサイフや鍵を      何度も一緒に捜し      あって良かったねと言っても      まだ捜してる      今見つかったということをもう忘れている      一人の時間を一人で過ごすことが      難しくなってしまった      空っぽになった家の部屋の隅に      母が着ようと思ったカーディガンが      そのまま置かれている      もう何ヶ月も経つというのに      まだそこに居ると思いたい      今なら母の思いが少しは      分かるようなそんな気がしている
   詠み歌七つ (2013.4.25)    ここに居ぬ友を探して空見れば 花びらとなり風に舞ひ逝く 花びらとなりて舞ひ逝く友ならむ 四月の空は果ても無きけり 葬別(わかれ)の日貰ひ来し花活けてをり 微笑む君の傍に居るごと 土鳩来て巣を造りをり我が庭に 子育ての技目の前に見ゆ 見も知らぬ遥かな空に憧れて 翼のあたり今もさすれり 井の中のかわずの我は広き海 今もこがれて泳ぎ習へり 地平線見ゆる大地にいつか佇つ その日夢見てここに息せむ
   春の雨の中 (2013.4.18)      傘をさすほどでもなくほつほつと      薄い雲間の陽光と戯れながら      髪や頬に落ちて来る      知らない家の庭先の花も      道ばたの草も      微笑むように空を見上げている      いつの間にか私も      少し顔を上げて      幼い頃の歌なんか口ずさみながら      心に水玉もようなんか描きながら      少し軽い足どりで歩いてみる      春の雨の中      一人じゃないから      なんだかそんな気持ちになれたから
   夢の続き (2013.4.11)      校庭のすみっこにあるブランコを      思いきりこいでみた      少うし空に近づいたかな      校舎も向こうの山も      足元よりも下になる      私より小さくなったと思ったよ      せっけんを溶かして作ったシャボン玉      そうっとね吹いてみた      少うし空に近づいたかな      ちょうちょもとんぼも雲も      いっしょの空を飛べるかな      夢のよに虹色に染め飛べるかな      幼い日少女の頃も今もまだ      風吹けば見上げてる      少うし空に近づいたよね      夕焼け一番星も      明日の希望教えてる      間に合うよ明日も夢は続くから
   観覧車の高さから (2013.4.4)      回る観覧車が頂点に来た辺りで      その窓から見える地上を走る車や      小さな家々や      その中で暮らしているであろう人々      私だってその中のひとり…      ほんの少し空に近づいただけなのに      私の限界なんて      せいぜいこの辺りなんだと      感じている自分がいる      向こうの山や高い空はまだまだ遠い…      その昔      急行列車に乗って      飛行機に乗って      離れて行った兄姉たち      乗りそこなった私は…      地元の遊園地で      回り続けるほどほどの高さの      小さな観覧車に乗って      その頂点辺りで      すぐ地上に戻ってしまう自分の人生を      あとは下るだけの      今からの在り方を      すぐに着くであろう地面を      飛び立つことのなかった地面を      見おろしている
   桜の空 U (2013.3.28)      咲く 咲く 桜      つぼみがつぼみが咲き始む      ほんのりほんのり桜色      あの日の私待っていた      つぼみが開くの待っていた      小さな夢をにぎりしめ      桜咲く空見たくって      桜咲く空待っていた      降る 降る 桜      花びら花びら降りしきる      はらはらはらはら薄くれない      今でも私待っている      降る 降る 桜      花びらその手に受け止めば      小さな羽根を背につけて      風に舞う空見たくって      風に舞う空待っている      夢見るような桜色      花びら舞って空染める      薄くれないに空染める
   桜の空T (2013.3.21)      幼い頃に見た空は      何の色にも染まらずに      透きとおった色をしていたよ      春まだ浅い寒い空      小さなつぼみはかたくって      桜の色に染まるには      遠い時間が必要だったよ      少女の頃に見た空は      何の夢でも追えそうで      好きな色に染まると思ったよ      暖かな風吹き始め      つぼみも少うしふくらんで      ほんのり頬も桜色      手を伸ばせば届くと信じたよ      今の私が見る空は      いくつものとき重ね来て      薄くれないの夕暮れ色の      ただ降りしきる花びらを      じっとたたずみ見上げてる      桜 桜 桜の空      果てしなく続けと祈っているよ
   不安の虫 (2013.3.14)      別に何をしているという訳でもないのに      突然心臓がドキンとすることがある      そのドキンに驚いて      しばらくの間ドキドキが治まるまで      何も手につかないことがある      台所の流しで洗いものをしているときに      突然涙がポロポロ溢れ出て      足元の床が浜辺の砂のように感じられ      ヘナヘナと膝からくずれてすわり込み      涙が終わるまで動けないことがある      いつもの道をいつものように歩いていて      まっすぐ行けば何      右へ曲がれば 左へ曲がれば      よく分かっているばずなのに      突然足が重くなり      どこへ向かおうとしているのか      途方に暮れることがある      ときどき突然現れる      この得体の知れないものは何なのだろう      心の中に棲む不安の虫だろうか      日頃は欠伸をして寝たふりをしているけれど      ときどき忘れられまいと起き上がる      ずっと眠っていてくれる方法は      ないものだろうか
   雲 (2013.3.7)      絶えず風に吹かれ      絶えず気流に乗り      どこへとも知れず      姿をとどめることもなく      おのれ自身など      初めから持ち合わせてもいない      でも      「雲一つない快晴」と表現される以外      たいていの空には      毎日何かしらの姿をして      私たちの見上げたところにある      それで満足なのだろう      見降ろす山や川      いろいろな街や人々の営み      そんなことには      何一つ関係なく      生きたいように生きている      いつ生まれたのか      いつ命を終えるのか      それさえも      とらわれることもない      きっと      これ以上の自由など      ありはしないだろう
   始めるそして終わらせる (2013.2.28)      心の中で笑ってみる      上手に表情を作れているだろうか      鏡に映してみる      ぎこちなくても      世間に向ける顔を作ってみる      きっとこんなもんだ      今日を乗り切れればいい      一日を      海の底に潜り込んで終わらせるように      生命を使い果たした魚のように      布団の中に身体を横たえる      浅い眠りでも      心の中に広がる青い海の中では      自由を得た魚のように      自分を振る舞わせてみる      意識のない身体で      水に抱かれた安心感を味わっている      次の朝はどうだろう      どんな表情で      鏡の前に立つのだろうか      きっとまた作った笑顔で      一日を始めるにちがいない
   昨 日 (2013.2.21)      角の赤レンガのマンション      その上の空ひときわ青かった      少しけだるい午後の空気の中      郵便配達のバイクの音      しなければならない伝票整理      目の前のパソコン      疲れた目を外に向けながら      向かいの家の窓の      レースが揺れるのを見ていた      ここを居場所と決めているけれど      なかなか一体感を得られないキーとマウス      BGMのラジオをせめて      お気に入りのCDに換えてみる      少しは心地が良くなるだろうか      何か一つ小さくてもいい      喜びか楽しみを捜してみたい      来る道か来てからか      帰る道か帰ってからか      今日という日の中で何か一つ      そんなことを考えていた      昨日      たった一日過ぎただけ      もう戻れはしないけれど      なぜか少しいとしい      昨日という響きの日
   春の空へ (2013.2.14)      小さなチョウの羽の柔らかな感触が      まだ手のひらに残っている      昨年の暮れも押し迫ったころ      買った白菜に小さな青虫がついていた      その青虫を白菜と一緒に小さな容器に入れ      台所の出窓に置いた      年が明け三が日が過ぎたころ      ふと容器を見ると      青虫がサナギになっていた      暖冬とはいえ      無事にチョウになれるのだろうかと      心配になった      サナギが気にはなるが      私にできることは何もなく      ただ時間だけが過ぎていった      でも      サナギは容器の中で      チョウになるための準備を着実に進めていた      立春の翌々日      サナギからチョウへ      華麗なる変身をとげた姿が      そこにあった      モンシロチョウよりもやや小さなチョウが      薄黄色の羽を静かに休めていた      「容器から出してやらなければ」      容器から手のひらにチョウを移し      両手でそっと包み込んだ      自宅前の畑のそばまで行き      手のひらを広げた      その瞬間      小さなチョウは      羽を思い切り広げ      畑の作物へは止まらずに      春の空へ飛び立って行った      いったいどこに      そんな力を秘めていたのだろう      穏やかな日差しが      小さなチョウの未来を      約束しているかのようだった
   栄養ドリンク (2013.2.7)      もういいですね これくらいで      ため息をこぼすのは終わりにしましょう      心に少し栄養を与えましょう      木々はまだ      冬の眠りの中にいるようだけど      きっとその寒さの中で      次の生命を育んでいるはず      暖かい日差しを指折り数えながら      小さな小さな息吹を繰り返し続けているはずです      人の瞳にふれないことは      たくさんあるけれど      誰に気づかれなくたって      おいしい空気やいい音楽…      少しずつ心の中に蓄えて      次の準備をして行きたいのです      足音はまだかすかだけど      必ず訪れてくれるはず      さあ ため息はもう終わりにして      心にほんの少しの栄養ドリンクを      次の一歩を踏み出すために
   明日の空 (2013.1.31)      どうしようもなくせつなくて上を向く      見上げれば空があるから      どこまでもどこまでも      広がっている空があるから      昨日のことも今日のことも      たいしたことなんかじゃないよ      空にそう言ってもらいたくて      下なんか向いたって仕方ないから      上を向くんだ      青い空だけじゃない      曇り空だって雨降りの空だって      私にとっては大切な友だち      胸の中のもやもやや頬つたう涙は      あの雲といっしょに      風に吹き飛ばしてもらおう      お日さまもお月さまも      星たちも      めぐりめぐって      また明日顔を見せてくれるはず      私にだってきっと明日はやって来る      どんな表情で私を見ていてくれるのか      明日もまた上を向こう      明日もまた空を見上げよう
   テリトリー (2013.1.24)      自分のまわりに      どれくらいの空間があれば      安心していられるだろうか      呼吸をするために      食べる糧を得るために      窮屈さを感じないために      毎朝散歩をする川筋で      羽を休めているカモメたち      数十羽から百羽くらい      ピーピーキーキー賑やかに      餌を啄んだり      羽づくろいをしたり      しばしの時を過ごしている      いつも群れで行動しているのに      その一羽一羽の間には      暗黙の了解のような      空間が存在している      近づき過ぎると      大きな声を出し羽ばたいて威嚇する      例え同じ群れの仲間であっても      自分で守るべきものは      自分で守らなければ      生きてはいけない      それはきっと      生きとし生けるもの      すべてに共通することなのだろう
   青い光 (2013.1.17)      宇宙の年齢は137億才だという      宇宙が生まれてすぐの      それでも7億年も経っているけれど      130億年前の星の光が      やっと届いた      果てしない果てしない時間と      果てしない果てしない闇を辿って      やっと届いた微かな光を      現在の人間が      現在の目で      現在の技術でとらえている      その光が      運んで来たものは何なのか      伝えようとしているものは何なのか      この青い地球は      この青い光を      いつまで放ち続けられるのだろう      何億年後かの      何処かの星の      誰かの目に      現在のこの地球の      息も絶え絶えの      心の疼きが届くだろうか      青い光は届くのだろうか
   ゼ ロ (2013.1.10)      何かが無くなっても      何かを失っても      陽は上り星は瞬き      朝となり夜と化す      何も変わりはしない      いつもゼロ      ゼロになるだけのこと      何事も無かったかのように      時は進み時は続いて行く      昨日も今日もそして明日も      それでいいのだと      必要と思っていたものでさえ      大切と思っていたものでさえ      最初からあった訳ではない      何も無い空間と何も無い時間を      また得られるチャンスだと思えばいい      新たな一秒一秒が      新たな何かを創って行くはずだから      時には振り返り      再びのスタートを切る      新たなゼロを確かめるために      それでいいのだと